全身持久力(循環器の能力)が必要な競技なのに、筋持久力を高めるいわゆる“補強”をのんびりと繰り返すことで個々の筋肉の鍛えているばかりの柔道部。
実際の競技が、5 秒未満の全力運動を十分な休息を挟みながら繰り返すものであるにもかかわらず、日々、隊列を組んでの長時間ジョギングを行う野球チーム。
単純に「持久力強化」だとか「スタミナアップ」だとかいっても、自分の行っている競技にとって必要なのがどういった持久力なのか、それを把握していないと、競技に必要なものが得られないトレーニングをすることになってしまう。
まず、特定の筋肉を長時間に渡って繰り返し収縮させる競技であれば、その個々の筋肉に、競技時間の間、バテずに一定の能力を発揮できるだけの持久力をつけさせる必要がある。この筋持久力をつけるためには、個々の筋肉に、個別のアプローチをせねばならない。上腕三頭筋の持久力が必要なら、腕立て伏せをするし、膝~股関節の伸展の持久力が必要なら、スクワットをする。「スクワットをしたから、上半身の筋持久力もつく」ということは、むろん、ない。
一方、全身持久力強化にかんしていえば、心肺機能に負担を掛け、その能力を高める運動であれば、それが上肢のみを使っての水泳であれ、ランニングであれ、自転車漕ぎであれ、つまりは、身体のどこの筋肉をメインに使うものであれ、どれでも良いといっていいだろう。※1
もうひとつ、別の側面で意識しておかなければならないのが、筋肉が力を発揮するためのエネルギーを生み出すシステムが、力の発揮度×継続時間によって、変化するということだ。
ハイパワー……大きな力を発揮する代わりに、10 秒未満しか持続させられないエネルギーの生み出し方。
ローパワー……小さな力しか発揮しない代わりに、長時間の能力発揮を可能とするエネルギーの生み出し方。
ミドルパワー……ハイパワーとローパワーの中間の強度で力を発揮し、ハイパワーとローパワーの中間の時間、30 秒~2 分くらいだけ持続できるエネルギーの生み出し方。
実際にその3つで何が異なっているのかといえば、ハイパワーはATP とCP、ローパワーは糖質と脂肪、ミドルパワーはグリコーゲンがエネルギー源で、ミドルパワーではグリコーゲン分解の結果、乳酸を生成する……とか、筋肉内で起こっている現象が異なるわけだが。ハイパワー=非乳酸系、ミドルパワー=乳酸系でそれぞれ無酸素運動で、ローパワーは有酸素運動だとか、その詳細を理解せずとも「3 段階に力の発揮の仕方の種類が違うのだから、自分の行っている競技が、どの段階の要素が強いのかを把握し、その度合いに沿った力の発揮度×継続時間の負荷を掛けた持久力強化を行わねばならない」ということを掴んでいればよい。
つまり、野球だったら、ハイパワーの局面がほとんどなのだから、ミドル~ローパワーの持久力トレーニングを行う必要は、あまりないだろう。
逆にサッカーだったら、長時間連続で動き続けつつ、短時間の全力走も必要なのだから、ハイ~ローパワーをまんべんなく鍛える必要がある。
では、格闘技ではどうなのか?
意外に意識していないのが、ローパワーに近い領域を必要とする競技と、ハイ~ミドルパワーの領域でほぼ終わる競技とがあること。
ラウンド制で計15 分~30 分ほど闘うプロ競技は前者、2 分~5 分程度の時間で1 試合が終わるアマチュア競技は後者ということだ。プロの競技は、(インタバルを挟むとはいえ)試合時間が長いからこそ、有酸素運動に近いペースで淡々と選手が動くものであり、それだからこそ、テクニカルな攻防が展開される。
それに対し、アマチュア競技は試合時間が短いのだから、余力を残さないで試合を終えるハイ~ミドルパワーの動き方をすべきなのだが、ロシアの選手と比べると、日本の選手は、プロ競技と同様のテンポで闘う選手が多いように思う。
おそらく「力を使う、荒々しく動き回る=テクニカルじゃない。テクニカルなことが美徳」といった感覚があるからだろう。もっと勝利に対し貪欲になり、戦略や練習方法を模索して欲しいところだ。
たとえば、アマチュアの格闘技チームで、メンバー同士で、ミットを打つ方と持つ方に分かれ、3分ミット打ちを行って、打つ方と持つ方を交替×3R……というやりかたを行っていると「片方の選手に3R 連続で打たせてから、打つ方と持つ方を交替してはどうでしょう? プロはそうしていますよ」といった声が出たりする。
しかし、一人の選手に3 分(+インタバル1 分)×3R 連続でミット打ちを行わせた場合、当然、3R の終わりまでバテないだけの有酸素運動的なペースでのトレーニングとなる。プロ競技者には適しているが、アマチュア競技者には、むしろ、3 分ハードに動き切った後、ミット持ちをしている3 分の間に十分に心拍数を下げられる「1R ごとに交替方式」の方が理にかなっているのではないか。※2
さらに専従のミット持ちがいるプロチームならばともかく、それぞれのメンバーがミット打ちをした分だけミット持ちをすることに時間を費やさねばならないアマチュアのチームならば、なおさら、3分(+インタバル1 分)×3R×交替=22 分要する方法よりも、3分(+交替に要する時間15 秒)×3R=19 分で終わる方法の方が効率がよい。
※1
実際に全身持久力トレーニングとして行われるのは、ほぼダッシュだとか、中距離走だとか、つまりは「走る」ことである。なぜなのか?
前提として、全身持久力トレーニングは精神的にキツいものだから、比較対象となる指標を与えることによって、モチベーションアップをはかることがキモとなる。
その指標としやすいのが、まず、チームメイト。チームメイトと競争することでモチベーションアップをはかりやすいわけだが、そのためには「チームの誰でもが出来ること」をトレーニングメニューとして選ぶ必要があり、水泳などでは「チームのうち5 名は継続して50 メートルすら泳げない」といった現象が生じるので、誰でも出来るランニングが無難な選択となる。
一方、行っている競技の動作をそのまま反復することで心肺機能をいじめるのが効率的だという考え方もあるが、問題は、その達成度を数値で測りづらいということだ。例えば格闘技でいえば「ミット打ちを3 分間全力」というメニューを行ったとしても、どれくらいの力で打ったかとか、少し手を抜いたんじゃないかとかは、数値で表されない。それに対し、ランニングでは、タイムを測ることが明確な指標となる。
また、多くのチームが、パワーMAX のようなマシンを複数台揃えているような環境下にないことも、靴と地面さえあれば、誰でも、手っ取り早く行えるランニングが選択される理由。
つまりランニングが行われるのは、ランニングという行為自体が特別な持久力アップ効果を持っているからではなく、消去法的な必然によるのだ(むろん、ここでいうランニングとは長距離のジョギングのことではなく、ショートインターバルトレーニングや中距離走のこと)。
ちなみに、個人的には、腕立て伏せやバーピー、タックジャンプといった動作を数十回ずつ連続で行う、いわゆるサーキットトレーニングは、あまりトレーニングとして好きではない。上記の競技動作を反復することによる持久力トレーニング同様「手抜き度」が数値で表されず、モチベーションを維持しづらいからだ。また、筋持久力トレーニングなのか、心肺機能のトレーニングなのか、フォーカス仕切れていないメニューゆえに、息を上げきらぬまま、筋疲労によって動作を継続できなくなっているケースも多く見受けるように思う。
さらにいえば、最近、アメリカのMMA ファイター……フランク・エドガーあたりのトレーニング映像をみると、ハイクリーンだとかドロップジャンプだとかが、サーキットトレーニングに含まれているが、これらパワー系、プライオメトリック系のメニューは、基本的には筋肉が疲労していない状態で行うべきものかと思うので、やや疑問が残る。いわゆるタバタ・プロトコルの流行の「行き過ぎ」ではないだろうか?
もちろん、サーキットトレーニングは筋持久力と全身持久力をほどよく全般的に高めるコンディショニング方法として、さらにはフランク・エドガーのトレーニングは、パワーと筋持久力と全身持久力を全面的に高める究極のトレーニングとして、効果はあるのだろうが。
※2
無酸素性能力の強化のためには30 秒~1 分間のハイスピード走やミット連打を、ジョグや休息を挟みながら行うことが多いが、ここで気をつけたいのはジョグや休息にかける時間の長さだ。無酸素性能力の強化をメインターゲットとして30 秒間のハイスピード走やミット連打によるインタバルトレーニングを行うのであれば、少なくとも1 分程度はジョグや休息を挟むべきだし、1 分間のハイスピード走やミット連打を行うのであれば、少なくとも2 分程度はジョグや休息を挟むべきだ。それくらいの時間を与えねば、次のトレーニングに取り掛かれるレベルにまで筋肉の状態が回復しないし、心拍数も下がらない。だから30 秒間のミット連打を行う場合、パートナーと交替しながら行うと「自分が30 秒ミット連打する→ミットの付け替えに15 秒くらい掛かる→ミット持ちを30 秒間行う→ミットの付け替えに15 秒くらい掛かる→自分が30 秒ミット連打する……」でちょうど、1 分間くらいの回復時間を挟みながら30 秒間の高強度運動を行うかたちとなる。これをミット持ちを交替せずに、30 秒ミット連打する→10 秒間インタバル→30 秒ミット連打する……を繰り返すとしたら、結局、有酸素運動に近いレベルにまで運動強度を下げて行うかたちになるに過ぎない。10 秒間の休息を挟みながら20 秒間の高強度運動を8 セットほど行う、いわゆる「タバタプロトコル」は、有酸素性能力と無酸素性能力を共に高める、中間強度のトレーニングレベルということになるのだろう。