1992年以来、20年振りに(苦笑)、競技クオリティーが“右肩上がり”に感じられた大会だった。ジュニア大会のレベルはますます上がっているし、そのジュニアのカテゴリーで育ち、一般のカテゴリーに上がってきた20歳の選手も、活躍をみせた。一方で、ベテランも力の衰えを感じさせず、粘り強く戦線に残り続けている。技術面でも、存分にこの競技独特の面白さを感じさせてくれたと思う。
以下、箇条書きで。
・渡辺慎二の50 歳での全日本出場、2 回戦進出は史上最高齢記録ではないか? この渡辺の2 回戦、46 歳の草薙一司とのテクニカルな足関節技合戦が繰り広げられていたとき、もう一つの試合コートでは、U19 クラスの試合が行われていた。こちらも一般クラスにまったく引けを取らないハイレベルの試合内容。親世代の闘い、子世代の闘い、2つのコートを交互にみながら、競技者層の広がりを感じた。
・20代の台頭が目立った。
内田淳一を本戦判定5-0 で下した目黒雄太(20 歳)
軸を崩さず正確なパンチと蹴りを放ち、中村知大を追い詰めた服部篤人(24 歳)
ムエタイスタイルから組んでの顔面ヒザで、次々と相手を葬った加藤和徳(26 歳)
その加藤から何度も腕十字を極めかけたオールラウンダー、杉浦宗憲(28 歳)
全日本王者2名(我妻猛、田中俊輔)を連破したラフファイター、鈴木智大(21 歳)
その鈴木と一進一退の攻防を繰り広げた伊藤駿(21 歳)
183 ㌢、87 ㌔の均整の取れた体格から放つ右で加藤久輝を苦しめた辻野浩平(23 歳)
今後、再来年の第4 回世界選手権までの各全日本大会は、見応えのあるものになるだろう。コンディショニング上の戦略で、今年の全日本出場を見送って、世界代表選考の基準となる来年春からの出場を考えている30 代~40 代選手は多いだろうから、彼らの世代と、20 代、そしてU19から上がってくる世代が凌ぎを削ることになる。
・中村和裕は、プロMMAでの活動を終えたら、全柔連の登録復帰を申請するかたちになるのだろうか? そこで、ふと思い出したのが、かつて小室宏二がアマチュア修斗やコンテンダーズに出場したとき、全柔連が「アマチュア競技であるならば、柔道以外の試合(武道・格闘技)に出場しても、何ら問題はない」と判断したこと。つまり、柔道とプロMMAは並行して行うことは出来ないけど、柔道と空道は並行して行えるわけだ。空道は「柔道の選手・指導者を続けながら総合格闘技系の競技にも取り組みたい」と考える柔道家たちにこそ、勧められる武道なのではないだろうか。
・今大会よりジュニア大会で使用されることになった、道着の内側に着用する「胴」を試着用してみたところ、側屈・前屈に支障なく、これまでの「胴」(柔軟性に乏しいため、側屈・前屈がしにくく、体幹の動きを妨げる。道着の外側に着用するため、道着を掴んでの組み技が出来ない)と比べて、とてもよいと感じた。
・ジュニア大会におけるルールの段階的限定も、懸念していたほどの混乱は生まず、よかったと思う。特に、今回、制定された投げ技の「この技まではOKで、あの技は反則」のラインは、危険を回避しつつ、組み技の技術を向上しうる、絶妙な線引きかと。
・有効以上のポイントを取られた選手は必ず、試合後にドクターが問診を行うなど、細かな部分でも、運営が進化していた。
・加藤久輝VS稲田卓也では、加藤がバックグラブを取ったのち、自ら背中をマットに着ける体勢(両者が仰向けになるかたち)を取り、ヒールキックを稲田の腹部に落とした。
加藤の身体の方が稲田の身体より下(重力方向下位)にあるとはいえ、この攻撃自体は、重力を乗じてヒットするものなのだから、反則とみなされるべきではなかったか?
(敬称略)