コラム ~#31 › コラム #30~#1
column#56
マススパー論 その2
以下、ブログに数回にわたって載せた内容をまとめ、加筆したもの。
マスについて、つづき。
体が固いと、上段(すごく固い人の場合は中段)の蹴りなんかは、勢いをつけて慣性を活かさないと蹴れない人が多い。
この場合は、マスの際、上段蹴りを引き戻せないないのは、まあ、止むを得ない。
「最大の努力をしたうえで、止められないのはやむなし。その代り、上段蹴りもコントロールできることを目指して、ストレッチとか基本・移動稽古での空蹴りを積むことを約束してね」ってところだろう。
私自身、上段後ろ回しなどは勢いで振りぬくことしかできないけど、小川英樹師範とかは、後ろ回しでも、肌まで1ミリのところでピタッと急停止させる。それを目指さねば、と思う。いずれにせよ、上段の蹴りを引き戻せないことは許容範囲であっても、パンチを引き戻さず押し込むのは、ダメだ。
加えていえば、緩く攻撃していて特定の技(得意技とか)だけコンタクトが強いといういうケースもよくある。なるべく、攻撃に強弱の差がないように心掛けよう。
打撃ではないけれど、空道の教則ビデオの撮影で、現在は大道塾から独立された岩木さんと行った寝技スパーは、相手への信頼や自制心があってこそのよき内容だったかと思う。事前に打ち合わせをすることなく、周囲で多くの人が見守っている状況のなかで、お互い筋力を使って技を防ぐことなく、かといって防御をせずにマグロになっているわけでもなく、攻防の展開を柔らかく行って、半々ずつタップを奪い合う内容だった。
その他、以下、マススパーについて細々と思い浮かぶこと。
- 組み技だったら「ライトスパーなんて、加減があいまいだから、常に全力でいいんじゃないか。必死の状況でこそ、ギリギリの競り合いの状況で使いうる技は養える」って考え方もある。でも、そのやり方は、脳を揺らす打撃ありの格闘技では、無理だろう。
- 御茶ノ水支部では「ゆっくりとした動きでの約束組手・マススパーの量をこなして"動きの自動化"(条件反射化)ができて、はじめて、攻撃の強さ・速さを増していく」方針ですすめたい。
- マスという語に対しての感覚が個人個人、異なっていて、そのすり合わせをするための言葉だとか数値…指標がないのが問題か、と。マススパーという言葉より「スロースパー」という言葉を使った方が、イメージは伝わりやすいのかもしれない。ただ、あまりにスローにされても、かえってやりにくいから〝スピードはそんなに落とさず押し込まない〟という意味を示すには「力を入れないスパー」か?(笑) 難しいところだ。
- マススパーをやったあとに「スパーやります」と言って、やってみて、たいして当たりの強さに差がなかったとしたら、その人のマススパーってなんなの? ってことだ。マススパーとスパーで、明確に「差」があるべし。
- 打撃にかんしては、マススパーだけを積んで、ガチスパー的なレベルは一度も行わぬまま、試合に挑んでよいと思う。ムエタイの選手がレンチュウだけやって試合に出るのと同じ。練習では、タッチボクシング(相手に触れて、相手には触られない)の精度だけを磨き、試合では、相手をダウンさせることは結果として起こることと割り切って、第一目標とはしない。相手を倒す(ノックアウトする、制圧する)力を養うことは、武道・格闘技として必須だが、その能力はサンドバッグやミット打ちや型稽古で磨けばいい。そして、磨かれた倒す能力は、マススパーや試合で発揮することのないまま、鞘に納めておけばいい。競技はスポーツと割り切って、競り勝つことを第一目標に。
- マススパー中に、ほんのスキンコンタクトしたくらいでその都度、一旦構えを解いて相手に詫びると、せっかくの攻防が途切れて、かえって相手の望むところではない場合がある。攻防を継続すべきコンタクトか、その瞬間に相手に詫びるべきコンタクトか、程度を見極めるセンスを養うことも、大事(マスを積むと、そういう"あうんの呼吸"が養われるからこそ、社会生活での身のこなしに活きる)。
- マススパーをしているときに、見守っている師範・先輩から「おい〇△クン! もっとガードを上げて!」とかって声が掛かったときに、その声の方に顔を向けて「押忍!」とかって返事をしてはいけない。試合中、セコンドの指示に対して、いちいちセコンドの方を向いて返事をするヤツがいるか? スパーは実戦の摸擬稽古なのだから、スパー中に相手から目を離してはいけない。声を掛ける側は、ただ「もっとガードを上げて!」と叫んだのでは、何人か同時にスパーをしている誰のことを指しているのか分からないから、名前を呼ぶことが必要なわけで、この場合"名前を呼ばれたからにはそちらを向いて返事しなくては無礼"という判断をするのは杓子定規的だ。"相手からは目を逸らさず返事をしつつスパーを継続する"が、臨機応変な対応だ。
- 「マススパーでは強く打ちこまず、ガチスパーはやらない」を練習方針とすると「じゃあ、自分の技が本当に効く場所に当たっているのか、本当に効くのか、練習で掴むことはできないのか?」という問題を感じるはず。強く打ち込まなくても、当てられた側は「今のがガチだったらメチャメチャ効いてたな」ってことは分かるはずだから、そういう打撃を受けたら、スパー中は平静を装いつつ、スパー後に「さっきの×□、効く場所に効くタイミングで入ってて、本気だったら倒れてた」と教えてあげよう。コミュニケーションが、問題を解決する。
- ここで述べているマスのやり方を行うと、WKFルール空手のスタイルの人に対応するのは、難しいと思う。かといって、自分も付け焼き刃的にWKFスタイルで闘ったのでは、マスのためのマスになってしまう。いい勉強だと思って、もがき苦しめばよい(笑)。
- 話は飛躍するが「プロレスって格闘技より難しいものだよなぁ」と思うことがある。
column#57へ このページのトップへ column#55へ